相続で、自宅の名義は誰に変更するのがいい?

こんにちは、財産承継コンサルタント/行政書士の鉾立です。

今回は、相続手続きに関してよくいただく質問に、Q&A形式で回答します。

 


 

Q. 相続で、自宅の名義は誰に変更するのがいいでしょうか?

父が亡くなり、父名義となっている自宅の名義を変更したいと考えています。

現在自宅には、高齢の母と、長男である私が住んでいます。

相続人は、母と私のほかに、離れて暮らす弟がいます。

相続で、自宅の名義は誰に変更するのがいいでしょうか?

 

A. 実務上は、そこに「実際に住む人の単独名義」にすることが多いですが、相続人同士で、問題点やリスクを検討したうえで、誰の名義にするか決定すると良いでしょう。

1. 共有不動産についての問題点

相続後、「自宅の名義を変更するにあたって、誰の名義にするのがいいでしょうか?」というご相談をよく受けます。

その際に、お伝えしているのが、まず前提として、一般的に、不動産は共有(複数人の名義)にしない方が良いということです。

なぜかというと、共有の不動産は、

  • 不動産(全体)を売却する際に、共有者全員の同意が必要となる
  • 不動産(全体)を担保にお金を借りる際に、共有者全員の同意が必要となる
  • 共有者の1人に相続が発生すると、さらに共有者が増えるなど、権利関係が複雑になる

など、後から様々な問題を生む可能性があるからです。

 

2. 相続の順番についての問題点

将来、相続の順番が変わると問題が生じるケースがあります。

例えば、

  • 自宅の名義 : 父
  • 亡くなった人: 父
  • 相続人   : 母、長男(妻子あり)

のケースで考えてみましょう。

父の相続に伴い、「自宅の名義を父から母に変更するのではなく、最終的に自宅を引き継ぐ長男に変更するのはどうか?」という質問を受ける場合があります。

母を飛ばして、初めから、最終的に自宅を引き継ぐ長男に名義を変更することで、名義変更にかかる費用を節約できる、という考えです。

一般的には、年長者から先に亡くなります。
しかし、相続の順番が変わったらどうなるでしょうか?

このケースで、自宅の名義を長男に変えた後、母より先に長男が亡くなると、長男の相続人は、長男の妻とその子供になります。

つまり、自宅の権利は長男の妻とその子供が持つことになり、母には権利がない状態となります。

母と長男の妻との関係が良好なら問題ないかもしれません。

しかし、良好でない場合、最終的に自宅を売却することになるかもしれません。

相続の順番が変わることで、母が住み慣れた自宅に住み続けることが難しくなる可能性があるのです。

 

3. 認知症等についての問題点

近い将来に、自宅を相続した人が認知症になるなど、判断能力を失って、自宅を売却することや大規模なリフォームを行うことが難しくなるケースがあります。

先ほどと同じ、

  • 自宅の名義 : 父
  • 亡くなった人: 父
  • 相続人   : 母、長男(妻子あり)

のケースで考えてみましょう。

「母は高齢ですが、健康面は特に問題ありません。ただ、最近物忘れが多く、日常生活をすべて1人で行うことに不安を感じているようです」という状況で、「とりあえず自宅は母名義にします」とした場合はどうなるでしょうか?

近い将来、母の認知症が進み、判断能力がなくなってしまうと、

  • 自宅を売却する際に、時間と手間がかかる成年後見制度を利用する必要がある
  • 自宅を担保にお金を借りてリフォーム工事を行うことができなくなる

といった問題が生じます。

【参考記事】
成年後見申立て手続きの流れ・ポイント

 

4. 相続税についての問題点

自宅を誰の名義にするかによって、相続税の税額が大幅に変わることがあります。

例えば、相続発生の直前において亡くなった方が住んでいた自宅の敷地については、

  • 亡くなった方の配偶者の名義にする
  • 亡くなった方と生計を一にしていた親族の名義にする

など、一定の条件に当てはまれば、330㎡までの限度面積において、相続税の計算上、土地の評価額を8割減額するこができます
これを、「小規模宅地等の特例」と言います。

【参考記事】
土地の評価額を8割減額できる小規模宅地等の特例とは?

また、亡くなった方の配偶者が、遺産分割や遺贈によって取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは、配偶者に相続税はかかりません。

(1)1億6千万円
(2)配偶者の法定相続分相当額

これを、「配偶者の税額軽減の制度」と言います。

【参考記事】
配偶者が多く相続した方が相続税は少なくなる?(配偶者の税額軽減)

 

自宅を誰の名義にするかは、

  • 相続人同士の関係性
  • 現在の居住状況
  • 相続人の年齢や健康面
  • 二次相続の税額のシミュレーション

など、各相続人ご家族の実情に応じて決めることになると思います。

実務上は、「そこに実際に住む人の単独名義」にすることが多いですが、相続人同士で、問題点やリスクを検討したうえで、誰の名義にするか決定すると良いでしょう。

 


 

以上、ご参考になさってみてください。

では、次回の【財産承継ミニセミナー】でまたお会いしましょう。

 

【関連記事】
相続・遺産分割・遺言執行手続きの流れ・ポイント

 

この記事を執筆している専門家
鉾立 栄一朗

財産承継コンサルタント
/行政書士・宅地建物取引士

行政書士 鉾立榮一朗事務所 代表
Change&Revival株式会社 代表取締役 

法律に関わる各種手続きでお困りの方を “専門家の知恵” と “最適な手続き” でバックアップする法律手続アドバイザー。

会社員時代、実家の金銭問題をそばで支えた体験から、事業や財産の問題で困っている人のサポート役になろうと決意。

合同法務事務所で働きながら行政書士の資格を取得するも、流れ作業的な書類作成・申請手続代行といった依頼者の想いや意思決定プロセスに関われないポジションに限界を感じ、相談業務を習得すべく経営(企業再生)コンサルティング会社に入社。

地域金融機関の専属アドバイザーとして年間50件以上の顧客相談に対応し、「身近に相談できる人がいない」、「知り合いに相談してみたが、満足な回答が得られない」と悩む企業や個人の経営問題・財産問題の解決に従事する。

専門は、相続・遺言、贈与・売買、営業許認可申請等の各種法務実務の実践。相談者の悩みを解決する最適な手続き・手法を提案し、必要に応じて適材適所、各分野の専門家をコーディネートする。

家族は、妻と息子と猫(キジトラ雄)。

毎月第1土曜日に『無料個別相談』実施中。
https://www.hokodate-jimusyo.com/soudankaib.html

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